製品の企画段階で作り込まれる品質を企画品質と呼びます。顧客のニーズを踏まえて検討した製品コンセプトの質で表されます。
これを受けて作り込まれる製品仕様書などに定める品質を設計品質と呼びます。製品の機能、性能、信頼性、耐久性など、顧客が期待する要件を満たしているかどうかがだけでなく、QCD(Quality、Cost、Delivery)を考慮して製品仕様の目標として規定した品質といえます。
最近の品質不良事案を見るとメーカーとして企画品質、設計品質の作り込みの能力の著しい低下を感じます。
マーケティングやR&Dの未熟を製造やQAが挽回することはほぼ不可能です。今更とは言わず、基本的なことを見直し、適切な技量を身に付けることが肝要です。
マーケティングやR&Dなら一度は、“品質機能展開”を勉強したことがあると思います。開発初期段階のマストアイテムです。
品質機能展開(QFD:quality function deployment)は、顧客の要求や期待(WHAT)を具体的な製品やサービスの設計・製造プロセス(HOW)に落とし込む手法です。顧客の声を体系的に分析し、製品や工程の重要な品質特性を特定することで、効率的かつ確実にニーズを満たすことを目指します。代表的なツールとして「品質表」が用いられ、要求と技術的要素の関連性を視覚的に整理します。
実際の進め方を焼肉ソースを例に説明します。
第1段階:顧客要求の収集と整理
- 市場調査の実施
- 顧客アンケート、グループインタビュー
- 商品評価会、試食会での意見収集
- SNSでの評価・コメント分析
- 競合製品の分析
- 販売店からの意見収集
- l収集データの整理・分類
- 生の顧客の声の分類
- 重複意見の集約
- 表現の標準化
第2段階:顧客要求品質の把握と分析(企画品質の確立)
- 一次要求品質:「美味しい」、「使いやすい」、「安全」
- 二次要求品質:
- 美味しい → 「肉の旨みを引き立てる」、「程よい甘さ」、「香ばしい」
- 使いやすい → 「適度な粘度」、「垂れにくい」、「残りやすい」
- 安全 → 「異物がない」、「適切な賞味期限」、「アレルギー表示」
第3段階:品質表の作成(企画品質の完成)
- 要求品質の三次展開
- 各要求品質に対応する品質特性の特定
- 重要度の設定(5段階評価)
- 品質特性の目標値設定
- 品質特性間の相関関係の明確化
第4段階:品質特性への変換(設計品質への展開)
- 味覚特性 :糖度、塩分、pH、粘度
- 物理特性 :粘性、流動性、付着性
- 化学特性 :たん白質量、水分活性、過酸化物価
- 微生物特性 :一般生菌数、大腸菌群
- 官能特性 :色調、香り、テクスチャー
第5段階:製造条件への展開(設計品質から製造品質へ)
- 原料配合 :醤油、砂糖、みりん、香辛料の比率
- 加熱条件 :温度、時間、撹拌速度
- 充填条件 :温度、充填速度
- 殺菌条件 :温度、時間、方式
第6段階:管理基準の設定(製造品質の確立)
- 品質特性の目標値:
- 糖度 :25±2°Brix
- pH :4.2±0.2
- 粘度 :500±50mPa・s
- 製造パラメータの管理限界:
- 加熱温度:95±2℃
- 加熱時間:10±1分
- 充填温度:85±3℃
品質機能展開は市場の声や製造実績を反映させた企画品質を確保し、仕様書に適切にいる込むことで設計品質を確保し、製造品質を継続的に見直すことでより良い製品開発につながります。
さらに市販後調査を企画品質に反映するPDCAを回すことで企業の製品開発力は向上します。

マス君お勧めの1冊:まずこれを読む!
初心者でも読めます。マーケティングとR&Dの必読書。でも、QAの方にも読んでもらいたい。
