モノつくるだけで終わらせない

品質保証

食品企業のR&D部門は、「お客様にとって良い製品をつくること」を目指して、日々真剣に取り組んでいます。試作・検討・修正を重ねて完成した製品には、開発者の知恵と工夫が詰まっています。

ただし、本当に“良い製品”とは、モノができただけでは十分とは言えません。

その製品が安定して再現でき、設計の意図が正しく生産部門や購買部門に引き継がれ、営業部門や流通部門の手を介して多くのお客様に同じ品質で届けられることまでを含めて、初めて価値があると考えています。

この“再現性”と“伝達可能性”を支えるのが、「形式知化」=開発知識の文書化です。

「形式知化」とは何か?

形式知化とは、開発者の頭の中にある判断・工夫・注意点(暗黙知)を、誰が読んでも理解できるかたちで記録に残すことです。製品という「モノ」を残すだけではなく、その背後にある「設計思想」や「判断根拠」までを文書で残すことが求められます。

これによって、製品開発の成果が一時的な成功で終わらず、組織全体で活用できる再現可能な資産になります。

文書化の5つの意義

1.製造の再現性と品質の安定

 設計の意図や注意点が共有されていれば、製造現場でも迷いなく再現できます。

2.トラブル発生時の対応力向上

 判断の経緯や前提条件が記録されていれば、問題の原因特定や対策が迅速に行えます。

3.知識の継承と人材育成

開発経験が記録されていれば、異動・退職時にも技術が失われず、若手育成にも活用できます。

4.顧客・監査対応の信頼性向上

 設計記録は、顧客監査や法規制に対する“説明責任”の証拠としても重要な役割を果たします。

5.派生開発・改良への応用

 過去の記録を参照すれば、類似製品の開発や改良を効率よく進めることができ、開発スピードも高まります。

文書化においては、品質保証(QA)部門からの学びは非常に有効です。

QA部門は日頃から監査・記録管理・説明責任に携わっており、「なぜそうしたのか」「何をもって証明とするか」といったロジックの構築や記録の仕方に長けています。

R&DがQAからトレーニングを受けることで、以下のような力が身につきます:

①.根拠のある文書構成の考え方

➁.トレーサビリティのある記録方法

③.問題発生時にも評価に耐える文書づくりの視点

④.外部監査や顧客に通じる説明力の習得

⑤. リスクと判断の記述力

つまり、品質保証部門の役割は、製品の品質を保証することにとどまりません。

高い品質の製品を生み出し、安定して供給し続けるためには、その根底にある「人材」と「組織」の品質もまた、確かなものでなければなりません。

一人ひとりの専門性、判断力、倫理観、そしてチーム全体が協力し合い、問題を未然に防ぎ、改善を積み重ねていける組織力。こうした「人」と「組織」の健全さを保つ取り組みも、品質保証部門にとって欠かせない使命のひとつです。

実際、製品の不具合やリスクの多くは、設備や工程の問題だけでなく、人の知識不足や組織のコミュニケーション不全から生じることも少なくありません。だからこそ、品質保証部門は教育訓練の仕組みを整え、日々のコミュニケーションを磨き、健全な風土を育む努力を続けていく必要があります。

品質保証部門は、教育訓練や風土づくりを通じて、人と組織の品質を高め続ける責任を担っています。

この取り組みを怠ることなく継続することによって、はじめて製品の品質保証も揺るぎないものとなるのです。

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