食品産業において、「安全なくして生産なし」という原則は、単なるスローガンではありません。それは現場と経営が共有すべき、生存のための前提条件です。生命を支える製品を作る場でありながら、労働災害が突出して多いという現実。このギャップを埋めることこそが、社会的信頼を勝ち取る唯一の道です。
採用難の核心にある「労働環境」という課題
現在、食品工場が直面している深刻な採用難は、もはや一時的な人手不足ではありません。低温・多湿といった特殊な環境、身体的負荷の大きい立ち仕事、単調ながらミスの許されない緊張感。こうした「食品工場特有の厳しさ」が若手の定着を阻んでいます。労働人口が減少する中、安全で働きやすい環境を整えられない企業は、早晩、社会の選択肢から外れていくことになります。
「二つの安全」は不可分である
労働安全の欠如は、そのまま食品安全の崩壊に直結します。
物理的連動:
床の汚れは転倒事故を招くだけでなく、微生物汚染の温床となります。機械事故による負傷は、血液や破片の混入という致命的な品質事故を引き起こします。
1.心理的連動:
労働災害が頻発する職場では士気が低下し、「これくらいなら大丈夫」というルールの軽視が蔓延します。安全を後回しにする姿勢は、衛生管理や CCP(重要管理点)の形骸化を必ず招きます。
2.マネジメントの共通言語:「リスク管理」
幸いなことに、労働安全と食品安全は同じ思考プロセスを共有しています。
労働安全衛生法に基づく「リスクアセスメント」と、HACCP に基づく「危害要因分析」。どちらも「危険の見える化 ▶評価 ▶対策 ▶検証」というサイクルで成り立っています。
OSHMS も HACCP も「PDCA」で動く共通の管理システムである
両者が統合できる最大の理由は、OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)と HACCP が、どちらも PDCA(Plan–Do–Check–Act)を基盤とした管理手法であることです。
OSHMS
危険源の特定(Plan)
▶対策の実施(Do)
▶点検・評価(Check)
▶改善(Act)
HACCP
危害要因分析・CCP設定(Plan)
▶管理基準に沿った運用(Do)
▶モニタリング・検証(Check)
▶是正措置・改善(Act)
つまり、
「危険を見える化し、管理し、改善する」という思考様式が完全に一致しているため、
労働安全と食品安全を別々に運用すること自体が非効率であり、むしろ統合する方が自然なのです。
5S、動線設計、標準作業(SOP)、教育訓練、記録管理といった要素は、OSHMS と HACCP の両方に共通する“管理の土台”であり、これらを一体的に運用することで、現場の負荷を減らしながら安全文化を強化できます。
日常のすべての判断に「安全」を
今、求められているのは、不祥事の後に一時的に安全を叫ぶことではありません。日常のあらゆる意思決定において、「この作業は安全か」「このやり方は製品の安全にも適しているか」と問い直す覚悟です。
労働安全と食品安全を一体として高めていくこと。それこそが、働く人を守り、消費者を守り、そして食品産業そのものの持続可能性(サステナビリティ)を守る、最も確実な道であると確信しています。
マス君お勧めの1冊:まずこれを読む!
こどもリスクマネジメント なぜリスクマネジメントが大切なのかがわかる本
子供向けと侮ることなかれ。「危機の未然防止」と「危機が起こったときの最悪の事態を防ぐ対応」を今や子供も学んでいます。

