技術系の職業では、暗黙知を形式知化することが技術の伝承を円滑にします。理由は、次の通りです。
1.理解と共有の促進
暗黙知とは、職人や技術者が長年の経験で得た知識やスキルで、言葉や文章にしづらいものです。形式知化することで、これらの経験やコツを明文化し、他者が理解しやすくなります。例えば、機械操作の「コツ」や品質管理の判断基準を具体的な手順書やマニュアルに落とし込むと、他の技術者がそれを再現・応用できるようになります。これにより、新人や若手技術者が効率よく技術を習得しやすくなります。
2.技術伝承の標準化
形式知として文書やデータとして記録されると、技術の伝承が標準化されます。これにより、特定の職人のみに依存せず、組織全体で同じ技術や品質を維持できます。また、技術の共有が広がることで、知識の漏れや個人差によるバラつきも抑えることができます。
3.技術の改善と革新を促進
形式知化された技術は、他の技術者や専門家による検討や改善の対象になりやすくなります。形式知として明文化されることで、技術が客観的に分析され、他の視点からの改善提案や新たな工夫が生まれやすくなります。これにより、技術の質や効率が向上しやすくなります。
例えば、あるベテランのソースの開発者が「適切な粘度やつや感」を経験的に目視で判断していた場合、それが形式知化されると「特定の温度帯で粘度を確認する方法」や「光の当たり具合でツヤを評価する基準」など、具体的な評価基準として新人にも共有できます。こうした手法を文書化し、誰もが同じ条件でソースの品質を評価できるようにすることで、技術の一貫性と標準化が実現します。
継承することの重要性は成功分野に限りません。失敗の継承はそれ以上に重要かもしれません。
1.同じ失敗の繰り返しを防ぎ、効率的な開発を実現
試作の失敗レビューを継承することで、過去の失敗から学び、同じミスを防ぐことができます。これにより、無駄な試作を減らし、開発プロセスを効率化できます。例えば、特定の材料の相性が悪いことを知っていれば、次の開発でそれを避け、リソースを無駄にしません。
2.失敗の原因分析を通じた技術の深い理解
失敗を詳細にレビューし、それを共有することで、失敗の原因をより深く理解できます。過去の失敗を分析し、次に繋げることで、開発者はより確かな技術的判断が可能となり、製品改良に向けた新たな解決策が生まれます。例えば、ソースの酸味が強すぎた原因を理解すれば、次回の調整が容易です。
3.技術進歩と知識の蓄積を促進
失敗の記録をチーム全体で共有し、技術的な改善や進歩を促すことができます。これにより、組織全体で知識が蓄積され、今後の開発や他のプロジェクトでも活用できます。たとえば、新人でも過去の失敗を参照しながら試作を進めることで、成功の確率が高まり、技術の継承がスムーズに行われます。
例えば、新しいソースの試作で「調味料A」を加えると酸味が強くなりすぎてしまった場合、そのレビューを残すことで、次に試作を行うチームが「調味料Aを少量にする」、「調味料Aを味質の異なる調味料Bに変更する」、「酸味を調整する別の成分Cを加える」といった改善策を考えやすくなります。
センスがR&Dには必要ですが、設計過程の標準化は形式知化することでかなりの部分が可能です。

