米国ではHACCPが導入されて長い時間が経っており、多くの食品業界でHACCPが食品安全管理の基盤として機能しています。それにもかかわらず、食中毒が根絶できないのは、いくつかの特有の要因と食品安全文化(food safety culture)との関連が深く関わっています。
食品安全文化のばらつき
食品安全文化とは、組織や社会全体で食品安全をどれだけ重要視し、日常の行動や判断にどのように反映しているかという考え方です。米国において、食品業界全体でHACCPが普及しているものの、食品安全文化の成熟度や一貫性にばらつきがあります。
- 大企業と中小企業の差:大企業はHACCPの導入が進んでおり、食品安全の文化がしっかりと根付いている場合が多いですが、特に中小企業や個人経営の店舗では、HACCPの実施が徹底されていないことがあります。これにより、業界全体で食品安全の文化が均一に広がっていないため、リスク管理の差が生じます。
- 従業員レベルでの理解の違い:食品安全文化は経営者や管理者だけでなく、現場の従業員一人ひとりに深く浸透していることが重要です。しかし、米国では現場の従業員の食品安全に対する認識が一貫していないことがあり、教育・トレーニングの不徹底が問題になることがあります。このような文化の未成熟な部分が、HACCPシステムの効果を弱めています。
大規模・広範囲の供給チェーンと複雑性
米国の食品供給チェーンは非常に広範囲で複雑です。この巨大な供給チェーンが、HACCPを適用する際に一部で食中毒リスクを取りこぼす原因となっています。
- 大量生産と大量流通:米国の食品産業は、非常に大規模かつ工業化されています。大規模な工場で大量の食品が生産され、国内外に広く流通します。このため、一度問題が発生すると、大規模なアウトブレイクとなり、リスクが全国的に広がる可能性が高いです。
- 供給チェーンの多段階化:原材料の生産から加工、輸送、保管、流通の各段階で異なる企業や施設が関与することが多く、それぞれの段階でリスクが発生する可能性があります。HACCPは各段階で危害要因を管理しますが、特に農場や輸送過程でリスクが見過ごされることがあります。
消費者の行動と家庭でのリスク
米国では、消費者の行動が食中毒リスクを高める要因となることが多いです。家庭や飲食店での調理や保存のミスが、HACCPの効果を弱めてしまうケースがあります。
- 食品の扱いが不十分:家庭での冷蔵保存が不十分だったり、肉や野菜を適切に調理しないことで、細菌が残る可能性があります。特に、米国ではバーベキューなどでの不十分な加熱や、大規模なイベントでの食品の取り扱いミスが食中毒の原因になることがよくあります。
- 生野菜やサラダの消費:健康志向が高まり、サラダや生野菜の消費が増えていますが、生野菜は洗浄や保存の不備があると、大腸菌やサルモネラ菌のリスクが高まります。米国ではしばしばレタスやホウレンソウが原因となる食中毒が報告されています。
HACCPを導入しても機能するか否かは関わる人々の影響を大きく受けます。食品安全文化が、「誰かが見ていなくても、チームメンバー正しいことをしている、」と説明されるのはその典型です。でも、これって、少し前まで日本での当たり前だったような気がします。当たり前(Common sense)は国や地域によって違います。

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