近頃、工場内で労働災害が続けて発生している状況を踏まえると、個々の作業者の不注意や、生産量増加に伴う一時的な負荷だけでは説明できない構造的な課題が見えてきます。
特に、R&D部門が工程スペックを決める権限を持ちながら、生産性や労働安全に対する責任が十分に担保されていない組織構造が、現場に無理を生じさせ、労災リスクを高めている可能性があります。
R&Dは製品の成立性を確保する立場から、配合条件、粘度、温度、撹拌・加熱・冷却プロファイル、充填条件、固化時間など、工程に直結する重要なスペックを決定します。これらは品質に関わる要素であると同時に、作業負荷や標準時間、安全性にも大きく影響します。また、清掃性や切替性、作業ステップ数や動作の複雑さといった設計要素も、現場の負担に直結します。
一方、生産部門は現場の実態を最も理解しているものの、これらのスペックを変更する権限を持っていません。現場で「危険」「負荷が高い」「標準時間に収まらない」といった課題が認識されても、R&Dが定めた条件を前提に生産を成立させるしかない状況です。そのため、無理のある工程条件がそのまま現場に適用される構造になっています。
さらに、ライン試作の所管がR&Dであることも課題の一つです。本来、ライン試作では製品成立性だけでなく、作業負荷、標準時間、危険動作、設備適合性、清掃や切替のしやすさ、連続生産時の安定性など、多面的な検証が必要です。しかし現状では、「サンプル確保」や「製品として成立するか」の確認に重点が置かれ、生産性や安全性の観点からの検証が十分とは言えません。
このような状況で決定された工程スペックは、現場にさまざまな無理をもたらします。
たとえば、
- l作業ステップが多く時間的余裕がない工程
- l高所作業や重量物の取り扱い、不自然な姿勢を伴う動作
- l清掃や切替が過度に複雑な工程
- l生産量増加に耐えられない設計
- l作業者が常に時間的プレッシャーを感じる構造
といった要素は、労災リスクを高める要因になります。
ここで重要なのは、この問題を特定の部門の責任として捉えるのではなく、組織構造上の課題として認識することです。R&Dが製品成立性を優先するのは役割上自然であり、生産性や安全性の評価は専門外である場合もあります。また、それらを適切に評価する仕組みが整っていないケースもあります。
しかし、工程スペックを決める権限がR&Dに集中している一方で、その結果として生じる生産性や安全性の課題への対応責任が現場に委ねられているのであれば、そこには明らかな不整合があります。
つまり、「決める権限」と「結果に対する責任」が一致していない構造こそが本質的な問題です。
現在の労災頻発は、この構造的な課題が表面化したものと考えられます。無理のある工程スペック、過小な標準時間、過大な作業負荷、生産量急増による焦り、正常性バイアス、現場の疲弊などが重なり、事故リスクを高めている状況です。これらの多くは、工程スペックの妥当性が開発段階で十分に検証されていないことに起因しています。
今後は、工程スペックの決定プロセスそのものを見直す必要があります。具体的には、
- lライン試作の目的を「サンプル確保」から「生産性・安全性の検証」へ拡張する
- lR&D・生産・品質保証の三者が共同で工程スペックを承認する仕組みをつくる
- l標準作業の妥当性(作業負荷・時間・安全性)を必須チェック項目として制度化する
- lR&Dの設計段階から生産性・安全性の視点を組み込む仕組みを整備する
といった取り組みが求められます。
労働災害の防止は現場の努力だけでなく、設計段階からの取り組みによって大きく左右されます。今回の状況を機に、権限と責任の整合を図り、より安全で持続可能なものづくりに向けた見直しを進めていくことが重要です。


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